勢いと出来心による予告編…? [小説 : Dolly Shadow]
■ 予告編もどきです。
出来心と言うか…… いや、実はけっこう前から企んでいたことなんです。でも、ふと何か書いてみたので、深夜に紛れてUPしてしまうという。
ええと、実際に引っ張るかどうかはわかりません。まだ既出キャラさえ掘り下げてないのに、これ以上出すのもどうかと思いますしね;
なので、あくまで出来心です……orz
それは、或る日の夜のこと。
春だと言うのに空気は冷たく、道行く人々が皆コートを掻き合わせる、そんな夜。
同じように薄手のコートを羽織り、バンリは独り、夜の街を歩いていた。
華やかなネオンと、車のクラクションに包まれた街。賑やかな人々の雑踏の中には、今日も危険な闇が潜んでいるのだろう。
だけど、それは、今の自分には関係のないこと。
雑踏の中を歩くバンリの足取りは、いつもより少し軽かった。眩しげにネオンを見上げるその顔からも、いつもの憂いの色は僅かに薄れ、代わりに仄かな安堵も滲んでいる。
無意識に手を添えるその懐には、大事にしまわれた一枚の小切手。
指名手配犯を見事にGLL警察へ引き渡した、賞金だ。
今回のターゲットは、とても手強い相手だった。実際の戦闘では大したことはなかったけれど、酷く巧妙に身を隠していて、尻尾を掴むのに随分と手間をとらされてしまった。
でも、その苦労があったからこそ、これだけの金額を貰えたのだ。
これでまた、預金の残高が増やせる。
これで、しばらくは…… 賞金首を狩らなくても、暮らしていける。
(……よかった)
胸元を押さえ、バンリはほっとため息をついた。
部屋に帰ったら、さっそく千紗さんにメールをしよう。仕事が無事片づきました、と
数日前、あの人は言っていた。
来週は一日休みを取れそうだから、映画を見に連れていってやると。
耳の奥に、あの人の声が甦る。バンリと、この名前を呼んでくれる…… あの、優しい声が。
あの人と一緒に、映画を見に行く。
そのことだけを楽しみにして、ここ数日、都会の闇を必死に駆け回っていたのだ。
(……千紗さん……)
あの人に、また、会える。
そう考えるだけで、何だか…… 薄汚い仕事への罪悪感も、少しだけ拭われる気がした。
そうだ、こないだ見かけたケーキを買って帰ろうか。
確か、この辺のお店だったはずだ。苺がふんだんに飾られた、とても美味しそうなロールケーキだった。美味しかったら、今度千紗さんにお出ししよう。その為にも、まずは自分が味見をしてみないことには……。
そんな他愛もないことを考えながら、バンリは、夜の街を歩いていく。
都会の夜は音に溢れ、行き交う車が光の川を作る。人々はただ思うままに歩道を闊歩し、すれ違い様に肩が触れ合うことさえ気にとめる者はいない。そして、バンリもそう。
だから。
バンリは、気付かなかった。
車道を奔る光の中で、一台の車が、不意にその流れから外れたことに。
路肩に停まったその車から、一人の男が降りてきたことに。
歩いて行くバンリの背中を、男はサングラス越しに少しの間見ていた。そして、その口元に、ニヤリと歪むような笑みが浮かんでいく。
「……おい」
男は、口を開いた。
「おい。バンリ」
ぴたりと、バンリは足を止める。
今、確かに誰かが呼んだ。
バンリという名、聞き間違えるはずがない。声に聞き覚えはないけれど。いや、あっただろうか。この声、どこかで聞いたことがあるような気もする。一体、誰が?
「……………」
警戒しながら、振り返る。
だが、その瞬間―――― バンリは、目を見開いた。
喉の奥から、ハッと途切れた息が洩れた。一瞬全身が凍り付いて、足下から、身体が小刻みに震え出す。
そこには、自分がいた。
いや、自分と同じ姿をしたものが、そこにいた。
その男はサングラスを取ると、懐から黒縁の眼鏡を取り出し、そっと顔に掛けた。
レンズ越しに此方を見つめる、その褐色の瞳に―――― ぐらりと、目眩がする。
そこに鏡があるのなら、どんなに良かっただろう。
だが、その“自分”は、自分には決して出来ないような表情を浮かべているのだ。ニヤリと唇を歪めた、その目を仄暗く輝かせた、酷く嫌らしい微笑みを。
立ち尽くすバンリを眺め、男は、ますます唇を吊り上げた。
まるで地の底から響くようなバリトンが、鼓膜をぐらぐらと揺さぶる。
「久しぶりじゃないか、バンリ。元気そうで、何よりだ」
「……………さ……ん………」
やっと零れたのは、滑稽なほどの掠れ声。
震える眉をぎゅっと顰め、バンリは、忘れかけていたその名を絞り出した。
「………カイリ……兄…さん………?」
出来心と言うか…… いや、実はけっこう前から企んでいたことなんです。でも、ふと何か書いてみたので、深夜に紛れてUPしてしまうという。
ええと、実際に引っ張るかどうかはわかりません。まだ既出キャラさえ掘り下げてないのに、これ以上出すのもどうかと思いますしね;
なので、あくまで出来心です……orz
それは、或る日の夜のこと。
春だと言うのに空気は冷たく、道行く人々が皆コートを掻き合わせる、そんな夜。
同じように薄手のコートを羽織り、バンリは独り、夜の街を歩いていた。
華やかなネオンと、車のクラクションに包まれた街。賑やかな人々の雑踏の中には、今日も危険な闇が潜んでいるのだろう。
だけど、それは、今の自分には関係のないこと。
雑踏の中を歩くバンリの足取りは、いつもより少し軽かった。眩しげにネオンを見上げるその顔からも、いつもの憂いの色は僅かに薄れ、代わりに仄かな安堵も滲んでいる。
無意識に手を添えるその懐には、大事にしまわれた一枚の小切手。
指名手配犯を見事にGLL警察へ引き渡した、賞金だ。
今回のターゲットは、とても手強い相手だった。実際の戦闘では大したことはなかったけれど、酷く巧妙に身を隠していて、尻尾を掴むのに随分と手間をとらされてしまった。
でも、その苦労があったからこそ、これだけの金額を貰えたのだ。
これでまた、預金の残高が増やせる。
これで、しばらくは…… 賞金首を狩らなくても、暮らしていける。
(……よかった)
胸元を押さえ、バンリはほっとため息をついた。
部屋に帰ったら、さっそく千紗さんにメールをしよう。仕事が無事片づきました、と
数日前、あの人は言っていた。
来週は一日休みを取れそうだから、映画を見に連れていってやると。
耳の奥に、あの人の声が甦る。バンリと、この名前を呼んでくれる…… あの、優しい声が。
あの人と一緒に、映画を見に行く。
そのことだけを楽しみにして、ここ数日、都会の闇を必死に駆け回っていたのだ。
(……千紗さん……)
あの人に、また、会える。
そう考えるだけで、何だか…… 薄汚い仕事への罪悪感も、少しだけ拭われる気がした。
そうだ、こないだ見かけたケーキを買って帰ろうか。
確か、この辺のお店だったはずだ。苺がふんだんに飾られた、とても美味しそうなロールケーキだった。美味しかったら、今度千紗さんにお出ししよう。その為にも、まずは自分が味見をしてみないことには……。
そんな他愛もないことを考えながら、バンリは、夜の街を歩いていく。
都会の夜は音に溢れ、行き交う車が光の川を作る。人々はただ思うままに歩道を闊歩し、すれ違い様に肩が触れ合うことさえ気にとめる者はいない。そして、バンリもそう。
だから。
バンリは、気付かなかった。
車道を奔る光の中で、一台の車が、不意にその流れから外れたことに。
路肩に停まったその車から、一人の男が降りてきたことに。
歩いて行くバンリの背中を、男はサングラス越しに少しの間見ていた。そして、その口元に、ニヤリと歪むような笑みが浮かんでいく。
「……おい」
男は、口を開いた。
「おい。バンリ」
ぴたりと、バンリは足を止める。
今、確かに誰かが呼んだ。
バンリという名、聞き間違えるはずがない。声に聞き覚えはないけれど。いや、あっただろうか。この声、どこかで聞いたことがあるような気もする。一体、誰が?
「……………」
警戒しながら、振り返る。
だが、その瞬間―――― バンリは、目を見開いた。
喉の奥から、ハッと途切れた息が洩れた。一瞬全身が凍り付いて、足下から、身体が小刻みに震え出す。
そこには、自分がいた。
いや、自分と同じ姿をしたものが、そこにいた。
その男はサングラスを取ると、懐から黒縁の眼鏡を取り出し、そっと顔に掛けた。
レンズ越しに此方を見つめる、その褐色の瞳に―――― ぐらりと、目眩がする。
そこに鏡があるのなら、どんなに良かっただろう。
だが、その“自分”は、自分には決して出来ないような表情を浮かべているのだ。ニヤリと唇を歪めた、その目を仄暗く輝かせた、酷く嫌らしい微笑みを。
立ち尽くすバンリを眺め、男は、ますます唇を吊り上げた。
まるで地の底から響くようなバリトンが、鼓膜をぐらぐらと揺さぶる。
「久しぶりじゃないか、バンリ。元気そうで、何よりだ」
「……………さ……ん………」
やっと零れたのは、滑稽なほどの掠れ声。
震える眉をぎゅっと顰め、バンリは、忘れかけていたその名を絞り出した。
「………カイリ……兄…さん………?」
続く...?
2009-06-25 02:48