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夜光虫 [小説 : Dolly Shadow]

■ ご注意 ■
この先は、千紗×バンリの本気でBLな小話です。
BLが苦手・嫌いな方、BLの意味がわからない方、15歳未満の方は、ここで引き返して下さい。万が一ご覧になって気分を害されても、此方は責任を負いかねます。
  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                         夜光虫
 
 
 
 
 

 
 
 
 熱に浮かされた時が過ぎ去れば、まるで泥の中に沈んでいくような、錯覚。
 火照った身体は鉛のように気怠くて、乱れたシーツの上にただ力なく横たわっているだけ。
 喉が、乾いた。
 洩らした呻きともつかぬ声に応えるように、濡れた温もりがそっと唇に重ねられる。
 流れ込んで来たそれを素直に飲み込めば、痛めた喉を水の冷たさが優しく撫でた。
 こくんと、上下に揺れる喉。
 最後にそっと唇をなぞり、それは静かに離れていく。
「………ん……」
 震えるように眉根を寄せ、バンリはまた小さく呻いた。
 誰かの大きな手が、髪を撫でてくれる。誰かの眼差しが、自分に降り注いでいる。
 だけど。
 泥に沈んでいく自分は、たゆたう闇の中。
 瞼を開いてみても、広がる世界は形なくぼやけて、まるで泡のよう。世界をつなぎ止めてくれていた眼鏡は、今はどこにあるのだろう。
 醒めているのか、それとも、夢なのか。それすらも、わからないけれど。
 それでも。聞こえてくる、声。
「……バンリ」
 綺麗なテノールの、呼び声。
 応えようとして、唇を開くと。ただ熱を持った吐息だけが、ほんの少し零れた。
 何かの温もりが、濡れた唇をそっと撫でる。
 弱々しい吐息を洩らす唇を、労るように辿る温もり。さら… と、衣擦れのような音がした。
「……バンリ……」
 また、呼ぶ声がする。
 何度か目を瞬かせると、ぼやけた世界に、微かな光が射した。
 青い、宝石のような光が見えた。
 さらさらと衣擦れの音がして、お日さまのような光が零れ落ちてきた。
 それは、とても優しい光。
 優しい人が、そこにいる。
「バンリ……」
 その人は、またさらりと髪を撫でてくれる。
 見つめている青い瞳。眩しい、金色の髪。
 ぼやけた世界の中で、その人だけは、鮮やかに見えた。
 その人の光だけは、どんな闇の中でも、はっきりと見えた。
 それは、世界の全てのように、見えた。
「……………」
 手を伸ばせば、ワイシャツの袖が指に触れる。
 バンリは、それを掴んだ。指に力は入らないけれど、夢中で掴んだ。
 意識が、泥に沈んでいく。
 心地の良い闇に、引き込まれていく。
 ……嫌だ。
 バンリは、思った。
 そう思ったら、目の奥がじわりと熱くなった。
 霞んでいく世界が、ますますぼやけ、滲んでいった。
 だけど、それだけは。
 その光だけは、まだ、そこにいる。
 くしゃっと顔を歪ませるバンリに、その人は、少し息を飲んだ。
 頬を零れ落ちる雫が、その青い目に映ると。その人は、憐れむようにその目を細めた。
「……バンリ。どうした」
 その人の髪が、はだけた肩に零れる。
 濡れた瞼の端に、柔らかな温もりがそっと触れた。
 優しい声が、聞こえた。
「どうした…… 嫌だったのか?」
 首を、振る。
 縦なのか、横なのか、わからないけれど。
 ぎゅうと目を瞑って、バンリはその人にしがみついた。
 その人の肩に、夢中で額を押し当てた。
 乱れたワイシャツとワイシャツが、衣擦れを上げて重なり合う。湿った髪と髪が、絡まり合う、ほど。
「………ち…さ………」
 渇いた喉が、軋みを上げる。
 喉を喘がせれば、零れるのは酷く掠れた吐息。声にすらなっているのか、わからない、音。
「……ちさ…、さ…… 千紗さ…ぁ……ぁぁ…ぁ……」
 手に、力が入らなくて。
 声も、出せなくて。
 闇に引き込まれていくのが、怖くて。
 怖くて。
「………………」
 その人の手が、震える背中をぐいと抱き寄せる。
 乱れた髪に、その人がくしゃっと指を絡める。
 子供のように泣きじゃくるバンリを、その人は、力強く抱きしめた。
 まるで、幼子を慰めるように。
 優しく、髪を撫でて。
 優しい言葉を、耳元に囁いて。
「……どうした、バンリ…… 俺は、ここにいるだろう」
 柔らかな温もりが、口付けを落としていく。
 耳に。額に。
 ぽろぽろと涙の零れる瞼に。
 涙で濡れた、頬に。
「お前も、ここにいる。俺の側にいる。……わからないのか?」
「……千紗…さ……」
 そして。ただ熱に浮かされたように呼び続ける、その、唇に。
 ぐらりと、世界が傾く。
 乱れたシーツが、また背中を受け止めた。
 その人の髪が、ワイシャツの上を零れる音。
 身体の下で、ベッドが軋む音。
 何度も、何度も重ねられる口付けは、苦しくて。暖かくて、頭の奥が、溶けるように痺れて。
 何も、わからなくて。
 わからなくなって。
「……わからないなら、何度でも教えてやる。……何度でも……」
 優しかった声が、低く、落ちた。
 大きくベッドが軋む音と共に、自分の喉から、喘ぐような声が洩れた。
 指から零れそうなワイシャツの袖を、夢中で繋ぎ止めれば。光の色をしたその人の髪が、濡れた頬を撫でた。
 まるで愛おしむかのように、さらさらと、撫でた。
「………っ…… 千紗…さ………」
 その光は、とても眩しくて。
 眩し過ぎて、酷く、目眩がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  
  
■ ……この二人、いつの間にこんな仲に……
久しぶりに「俺の下であ○け」のサントラを出して、「食虫花」をエンドレスリピートしてたせいかもしれません。
この曲聞くと、何かBLっぽいものが書いてみたくなるんですよね……
(※「食虫花」=ゲーム内のそういうシーンで使われるBGM。鬼畜な中にどこか切ない旋律の入り交じる、個人的に神曲)
『っぽいもの』が書いてみたかっただけなので、『やまなしおちなしいみなし』とはまさにこのことです。
あ、千紗は普段は優しいですが、そういう時になると鬼で蓄な人になればいいと思います。(←少しは自重するべき)
そして、何のフォローもなく終わりますよ。おやすみなさい^^
 
 
タグ:バンリ 千紗

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