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Happy Birthday "Ayase"! [小説 : Dolly Shadow]

イラスト/桜井嬢

■ 賞金稼ぎのクロメ少年、アヤセが7月20日にお誕生日を迎えました。
アヤセ、お誕生日おめでとう!
 
  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 真夜中の道を、アヤセは独り歩いていた。
 街灯が照らす光の中に、雨粒の筋が真っ直ぐに映る。地面を打つ水音が周囲の音を掻き消してしまうほど、強い雨の降る夜。
 長い金色の髪から、ぽたぽたと雫が滴り落ちる。
 力なく垂れたクロメの耳と、猫のようなその尻尾からも、ぽたぽた、ぽたぽた。
 傘も差さず、漆黒のコートをぐっしょりと濡らしたまま、アヤセは蹌踉めきながら歩いていた。
 びしゃり、びしゃり。
 鉛の棒を引き摺るような足音が、雨音に掻き消されていく。
 濡れた髪がゆらりと揺れる度、雨粒が宵闇の中に弾け飛んでいく。
 真夜中の、住宅街。
 そして、冷たい夜の雨。
 こんな夜に、外を出歩く者などいるはずもない。
 きっと今頃、他の皆は暖かな家の中にいて、外の雨模様を眺めながら己の幸せを噛みしめているのだろう。
 だというのに。
 だというのに、オレは…… こんなところで……
「……………」
 キュッと唇を固く結んで、アヤセは俯いた。
 左腕を押さえる手が、どうしようもなく震える。もう、あまり力も入らない。
 焼けるように痛む、腕の切り傷。
 手で押さえたところで、この酷い痛みが和らぐはずもない。雨粒は力の抜けた手を易々と擦り抜け、傷口へと容赦なく染み込んで来る。
 わかってる。傘も差さないで歩いてる自分が悪いんだってことは。
 でも…… 仕方がないじゃないか。
 傘を持っていないんだから、仕方がない。
 言いようのない惨めさが、髪の毛に重く染み込んでくる。頭の上から泥水をぶちまけられたような、そんな、気分。
 ……畜生。
 こんな格好で、傘買いになんか行けるかよ。
 痛む腕を見下ろし、アヤセは独り舌打ちをする。
 闇に紛れる為の黒いコートは、ぐっしょりと雨に濡れて、ますますドス黒さを増している。
 だから、一見しただけでは、ただちょっと破れているだけに見えるだろう。
 だけど。
 この、いつまでも鼻にまとわりつくような血の匂いだけは…… どうやったって、誤魔化せるわけがないじゃないか。
「ッ…、ぅ……」
 一際酷い痛みに、思わずアヤセは呻いた。
 足が、勝手に止まってしまう。
 そんな自分に舌打ちしながら、アヤセはぐぐっと傷口を押さえた。
 痛みなんて…… 慣れてるんだ。
 こんなの、『痛み』のうちに入らないんだ。これくらいの怪我、日常茶飯時なんだから。
 痛くない。
 こんなの、痛くなんかない。
 噛みしめるように自分に言い聞かせ、アヤセはまたふらふらと歩き出す。
 ……痛くない。
 でも、怪我の治療は…… しなきゃ。
 腕は大事な商売道具だ。これくらいの傷なら後遺症の心配はないだろうが、早く治さないと後の仕事に差し支える。
 賞金首を、狩る。
 それが、自分の仕事。
 しばらく休業を余儀なくされそうだけど、とにかく早く治さなければ。早くこの腕に銃を持てるようにならなきゃ、食っていけない。
 それに、今日取り逃がした賞金首も…… これ以上リヴリーを襲う前に、次こそとっつかまえてやらなきゃ……
「……………」
 悔しさが腹に込み上げて来て、アヤセはギリッと唇を噛みしめた。
 腹を思い切り蹴り飛ばされた時の、込み上げる胃液の味。
 ナイフで腕に斬りつけられた時の、あの、焼き鏝を当てられたような痛み。
 呻き声を上げる自分に、じゅるりと舌なめずりしていた…… あの、嫌らしい笑い声。
 必死に敗走する自分を、濡れた足音が追いかけて来た。ビシャ、ビシャ。
 ……嫌だ。
 嫌だ、嫌だ。吐き気がする。
 気を抜くと震え出してしまう身体を、アヤセはぎゅうっと押え付けた。
 手の下で、傷がズキズキ疼く。
 痛くない。
 こんなの、痛みの内に入るもんか。
 震えるのは、寒いからだ。
 雨に濡れて、身体が冷えたんだ。
 痛くなんかない。
 怖くなんか、ない。
 街灯に照らし出される雨筋は、ますます強く、濃くなっていく。
 鉛のように重い身体を引き摺りながら、アヤセは、誰もない夜道をただ独り歩いた。
 大通りの方から、時折車のクラクションが聞こえて来る。
 都会の夜が、眠りにつくことはない。
 だというのに。
 だと、いうのに。
「…………………………」
 歩いていると、何だか頭がぼんやりしてきた。
 力なく首を動かし、アヤセは天を仰ぐ。
 埃と血で汚れたその顔を、冷たい雨が容赦なく打ち据えた。澱んだ空から落ちる雨粒が見えたのも束の間。すぐに目にも雨が入って、視界はたちまちぐにゃりと歪む。
 アヤセは、項垂れた。
 目に入った雨粒が、下を向いた途端に、ぽろりと、零れ落ちる。
 ……ああ。
 何で、こんなことに…… なってるんだろう、オレ。
 どこかで、間違えたんだろうか。
 もし、そこを間違えなかったら…… 今頃は自分も、どこか暖かな家の中にいて、ざんざん降りの外を窓から楽しく眺めていたのだろうか。
 どこかで、間違えさえしなければ。
 でも…… それは、どこ?
 破門された時から?
 最初に銃を握らされた時から?
 修道院の前に捨てられていた時から?
 それとも、生まれた時、から?
「………ククッ……」
 反らしていた背を丸め、アヤセは独りくつくつと笑った。
 バカ言ってんなよ、オレ。
 そんな不幸っぽい自分に浸ってみたりして、それでこの傷が治るかっての。
 雨は止む気配なくざーざー降ってるし、自分には傘がない。
 これが、現実。
 疲れたからって足を止めていても、傷に雨が滲みて、ますます痛みが増すだけ。歩けないなんて泣いいてたって、誰も助けちゃくれない。
 それが、現実。
 残酷だけど、竹を割ったようにスッパリ明確。慈悲に満ちたこの現実。
 歩け。
 歩けよ、オレ。
 そうすれば、楽になれる。
 今が、どんなに辛くても…… 歩けば、這ってでも進めば、ささやかな救いが待ってる。
 ああ、ほら。
 クゼさんの教会は、もう近い。
 雨道の向こうに、遠くぼんやりと、教会の尖塔が浮かんで見えた。都会の夜を包む街灯りに、仄かに照らされて。
 あそこへ行けば、優しい人が迎えてくれるんだ。
 大好きなあの人が、よしよしって、頭を撫でてくれるんだ。
 あそこへ行けば。
 道のりは、まだまだ遠いけれど。
 腕は焼け焦げたようにズキズキ疼いて、疲れ切った脚は、もう…… これ以上、動きそうもないけれど。
 でも、歩け。
 もう無理だけど、歩くんだ。きっとあと少しだから。
「……っ、は…… ッ……」
 ギリッと歯を噛みしめ、アヤセはぐっと道の先を見据えた。
 力を振り絞って、足を前に出す。
 びしゃり、びしゃり。
 鉛を引き摺るような足音が、激しい雨音に掻き消されていく。誰もいない夜の道で、誰の耳に届くこともなく。
 アヤセの喉が、ぐぅっと鳴った。
 込み上げてきたものを押し止めようと、喉が押し潰された音。
 前髪から落ちた雫が、ぽたりと睫毛に落ちる。
 それが頬を伝い落ちていく冷たさに、押し潰した喉が喘ぎそうになった。
 その時、だった。


「――――――おや…… アヤセじゃないか」


 背後から、人の声がした。
 それは、自分の呻き声ではなかった。
 幻聴でも、なかった。
 激しい雨音の中で、確かにこの耳の鼓膜を震わせた…… 聞き覚えのある、声。
「………………」
 おずおずと、アヤセは振り返った。
 暗く澱んでいた視界に、街灯の灯りがじわりと滲む。
 細い脇道から出て来たその人は、黒い蝙蝠傘を差しながら、静かに雨道を歩いてきた。
 少し湿った、桜色の髪。
 黒い法衣の上で揺れている、銀色の、十字架。
 息を飲むアヤセの側へ、その人は少し早足で近付いて来た。そして、少しほろ苦く微笑む。
「どうしたんだい、アヤセ。びしょ濡れじゃないか…… また傘を忘れてしまったのかい?」
 耳に染み込んで来る、優しいテノール。
 言葉を忘れて立ち尽くすアヤセに、その人は自らの傘を差し出してくれた。自分の肩が濡れてしまうことも、気にすることなく。
「さぁ、お入り。帰ったら、何か暖かいものを作ってあげようね」
「………クゼ…さん……?」
「ふふっ、司祭が夜遊びをしているとでも思ったかい? 実は、近所の信者さんのところで赤ちゃんが生まれてね。どうかすぐに祝福をと、寝入ったところを起こされて…… うん?」
 ふと、クゼ神父の眉がきゅっと寄せられる。
 染み込んだ血の匂いに、気付いたのだろうか。左腕を押さえるアヤセの手に、その人の手が添えられる。
「ッ……」
 ビクッと、アヤセは身を竦ませた。
 自分が薄汚れているのはわかっている。こんな清らかを絵に描いたような人に、汚い傷を触らせるなんて……
 だが、クゼ神父は躊躇う様子も忌み嫌う様子もなく、傷口を押さえるアヤセの手を労るように撫でた。
 そして、そっとその目を細める。
「そう。今夜も、お仕事頑張ってきたのだね。アヤセ」
「……っ…、クゼさ……」
「ふふっ、大丈夫。すぐに手当をして、痛み止めの魔法をかけてあげるからね。そうすれば、すぐに痛くなくなるとも…… さぁ、帰ろう」
 にこっと、微笑むその人。
 まるで綻んだ桜の花のような、優しい、暖かな微笑み。
「…………」
 アヤセは、呆然とそれを見上げた。
 何か、信じられないものを見るように、その人の微笑みを見つめた。
 ……もう、歩けないと思っていたのに。
 もう無理だって、本当は、倒れてしまいたかったのに。
 でも、会えた。
 優しい人に、会えた。
 神さまが、また…… オレを、助けてくれた。
「………ぅ………」
 身体が、震えだした。
 堪えていたものが、全て、堰を切って溢れ出した。
 くしゃっと顔を歪ませて、アヤセまるで縋り付くように、その人の胸にしがみついた。
 細いその身体が、少しだけ蹌踉めく。
 黒い蝙蝠傘が、水たまりにぱしゃっと落ちる。
「……アヤセ」
「ク、クゼさ…ぁ……」
 ぎゅうっと、その人の黒い服を握りしめる。
 優しい人の胸に縋って、アヤセは喘ぐように泣きじゃくった。
「クゼ、さ…… 痛い、よ…… 痛かったよ…ぉ……! うっ、ぅぅ…ッ……うぁ…ぁ……!」
「……アヤセ……」
 冷たい雨が降る。
 白糸のような雨粒が、寄り添う二人を容赦なく打ち据える。
 優しい人の胸に縋り付いて、アヤセは泣きじゃくる。小さな子供のように。
 もう、止まらない。
 身体が震えて。涙が溢れて、溢れて。
 我慢していたこと、押し殺していたこと、全て溢れてしまった。優しい人の、優しい微笑みを見たら。
 痛かった。
 痛かった。怖かった。苦しかった……!
「アヤセ……」
 澄んだ声が、震える子猫の名を呼ぶ。
 雨音に掻き消されることもなく、耳に染み込んで来る優しい声。
 びしょびしょに濡れたアヤセの髪を、クゼ神父は指で梳くように撫でてくれた。
 そして、もう片方の手で、血塗れの傷口をそっと押さえてくれる。
「そう。痛かったんだね、アヤセ…… 怖くても、頑張ったんだね。偉かったね、アヤセ……」
「……ぅ…… クゼ、さ……」
「よく頑張ったね、アヤセ。もう大丈夫…… もう泣いていいのだよ。好きなだけ、泣いていいのだよ。アヤセ……」
 暖かな手が、頭を撫でてくれる。
 優しい声が囁いてくれる。冷え切った胸を暖かく溶かすように。
 びしょ濡れの子猫にそっと舞い降りた、ささやかな奇跡。
 取るに足らない、ただの偶然という名の、奇跡。
「……さぁ、アヤセ。一緒に帰ろう。手当をして、鈴影先生に来ていただこうね」
「う、うん…… クゼさん……」
 ひとつの傘を二人で掲げ、寄り添い合って、二人は雨道をゆっくりと歩き出した。
 凍えるような寒さだけは、もう感じなくなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
■ 我が家の可愛い子猫ちゃん、アヤセがお誕生日を迎えました!
おめでとう、アヤセにゃん^▽^





アヤセは、元神父の賞金稼ぎの少年。
黒衣の二丁拳銃使いで、仕事となれば素早さを活かしたスタイリッシュな戦いぶりを見せてくれるのですが…… です、が……
お仕事を離れた普段のアヤセは、ヘタレのにゃーにゃー子猫ちゃん。
怖がりですぐぷるぷる震えたり、「うー……」と呻ったり、すぐ真っ赤になってみたり、意地っ張りだったり、もう何と言うかヘタレを絵に描いたような子です。
女の子にしか見えない可愛いらしい外見も、またアヤセにとっては受難のひとつで…… よくチャコールに可愛い女の子の格好をさせられては、恥ずかしがってうーうー言ってます。
でも、そんなアヤセにゃんも、仕事となるとまるで別人。
高いビルの上でも平気で飛び移れるし、強いモンスターとも独りで臆することなく戦えるという…… そう、やれば出来るヘタレなのです!(`・ω・´)キリッ
……そうじゃないとただのヘタレですけどね……
でも、そんなアヤセにゃんは、素直じゃないけれどとっても優しい子です。
仲間やお友だちのことを、とても大切に思っています。元聖職者ですし、本当は純粋な子なのです。
DollyShadow組の大人たちも、みんなアヤセのことを可愛がっています。
アヤセにゃんは、DollyShadow組のマスコットみたいなものですね^^



「誕生日おめでとうな、アヤセ。ククッ」(ちゅっ)
「う、う~……///」


チャコールから、誕生日お祝いのちゅー^^
ヴォルグの情報屋チャコールのことを、本気で怖がっているアヤセですが…… チャコールのことを好きなのも、アヤセの本心のようです(本人は気づいていませんが)
本人たちはどうであれ、端から見ているとラブラブにしか見えない『こるあや』。
この二人は、ミズリも書いていて楽しくて大好きです^▽^
チャコールも、アヤセのことが可愛くて可愛くてしょうがないみたいですしね。
その方向が時にはよからぬ方向へ行ってしまうのですが、まぁ、それも愛ということで……
こるあや二人で、これからも仲良くね^^



「生まれて来てくれてありがとう、アヤセ。よしよし……」
「……クゼさん……」


クゼさんからも、お祝いの膝枕もふもふ^^*
アヤセは、クゼさんが大好き。
教会を破門されて行き倒れかけていたアヤセを、クゼさんは優しく迎え入れてくれました。それ以来、アヤセはクゼさんを実のお兄ちゃんのように慕っているのです。
クゼさんも、アヤセを実の弟のように可愛がってくれています。
この二人に関しては、BL要素は一切無し。純粋に兄弟みたいな仲良し二人です。
今回のお誕生日話は、アヤセとクゼさんの話でした。
そう言えば、昨年のアヤセのお誕生日もそうだったような…… この二人がもふもふにゃーにゃーしてるとすごく和むので、つい^^
世界で一番大切な人は誰? って聞かれたら、きっと「クゼさん」って答えるであろうアヤセにゃん。
チャコールとはまた違った純粋な意味で、大好きな人です。



「コール兄が、宝くじ買ってきてくれたぜ…… ま、まぁ、どうせ当たらねーだろうけど」


ちょっとギリギリでしたが、宝くじもお祝いにいっぱい買ってきました。
良いのが当たるといいね^^
改めて、お誕生日おめでとう、アヤセ!
これからも、可愛くてカッコイイ元気な子猫ちゃんでいてね。
 


【追記:私信】
眞下さんのnice拉致企画で、クゼさんを描いていただきました。
コメント不要ということでしたのでniceだけで失礼してきましたが、本当にありがとうございました!
すぅっとした目で微笑むクゼさんが綺麗で格好良くて、うぉむたんがもふもふ可愛くて…… し、幸せ……(*´д`*)
嬉しいお言葉もいただいて、本当にありがとうございました!
次回の更新時にぜひ紹介させていただければと思います。






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