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真夏のウォームと、懐かしい声。 [小説 : Dolly Shadow]





■ 今年も、ウォームを炎天下に放置してはいけませんよ、という話。
ちょっとプロローグ的な感じかもしれません。
(まひろさん宅の鈴影先生のお名前を出させていただいてます)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生来のウォーム種である私は、夏の暑さには極端に弱かった。
 司祭として神に仕える身である私が、唯一、神の恵みとして受け入れることの出来ないこの季節。
 昨年の夏、私は熱中症に倒れるという失態をおかしてしまった。
 あの時は、友人である鈴影医師や、チャコールに随分と迷惑をかけてしまって、酷く恥ずかしい思いをしたものだ。
 そして、昨年同様に猛暑となった、今年の夏。
 あの恥ずかしい記憶を、全く教訓として活かすことなく…… 私はまた、同じ失敗を繰り返そうとしていた。



「……………」
 頭の上の方で、蝉が盛んに鳴いている。
 手にした帽子で胸の辺りを扇ぎながら、私は、ぼんやりと天を見上げていた。
 若いクスノキが作る、ささやかな木陰。
 その外は残暑とは思えぬ強い陽射しが降り注ぎ、世界を白一色に焼き尽くそうとしている。
 繁る葉の隙間から覗く、目の眩むような光。
 細めた目を瞬かせながら、私は、ぼんやりとそれを見ていた。
 ここは、どこだったか。
 そう、ここは…… 住宅街の中にある、小さな公園。
 あまり治安の良くないこの街では、外で子供の姿を見かけることはあまりない。
 まして、こんなに陽射しが強くては、公園に行こうなどと思う者はいないだろう。
 このささやかな日陰に逃げ込むしかなかった、私のような者以外は。
「…………………」
 暑い。
 それしか、考えられなくなってくる。
 帽子で扇ぐのも面倒になって、私は、ぱたりと手を下ろした。
 私の身体を覆っているのは、漆黒の司祭の衣装。
 もちろん、薄手の夏物ではあるのだが…… ここまで真っ黒な上に、手と顔しか露出がないのでは、果たして夏物の意味はあるのだろうか。
 その上、幼少時から肌を出すことなく育って来たせいか、私はあまり汗をかかない体質だった。
 司祭としては、常に涼やかな表情を保っていられるのは良いことではあるのだけれど…… 医者が言うには、それが私を暑さに弱くさせている要因でもあるらしい。
 これも、職業病というものだろうか。
 真っ黒な自分の服を見下ろして、私はそんなことをだらだらと考える。
「………暑…い……」
 無意識の呟きが、乾いた口から零れた。
 日陰とは言え、炎天下の公園。こんなところにいたって、休めるどころか、ますます暑気に中るだけだろう。
 それは、わかっている。
 わかっているのだけれど……
 クスノキの木陰の外は、もう、真っ白に焼き尽くされた世界。
 とても、出ていく気にはなれなかった。
 それにもう、何だか頭がぐらぐらと重くて、とても立ち上がれそうもない。
「……………」
 どこかで、蝉が鳴いている。
 まるで、残された命を燃やし尽くすかのように。
 聞こえるのは、蝉の声だけ。それ以外は酷く静かだった。昼間とは思えないほどに。
 皆、どこかへ出かけているのだろうか。
 焼け付くような都会を離れ、空気の澄んだ郊外へ。それはきっと、素晴らしい休養になるだろう。
 私には、それは出来ない。
 司祭である私が、自分の教会を離れられるわけがない。
 それは、当然のことではあるのだけれど。
 それなのに、何だかぽつんと独り取り残されたような…… そんな気分が、ふっと胸を掠める。
 ああ。
 それは、何だかとても、懐かしい気持ち。
 夏の空を見上げると、いつも胃の底にじわりと込み上げてくるそれ。仄かな塩素の匂いがする、この気持ち。
 どこからか聞こえて来る、子供達の声。
 ただ通り過ぎるだけの、私。
 固く閉ざされた修道院の窓からコバルトブルーの空を見上げては、この季節は一体なんだろうと、思っていた。
 夏は、切ない。
 真っ白な入道雲が、私の胸を詰まらせる。
 修道院の外へ出るまで、私は夏を知らなかった。
 そして、それを知った時には、もう…… 私は、大人になりすぎていた。
 もう、手には入らない。
 有りもしない夏に思いを馳せても、そこには、何もない。
 それは、何だか、大切なものを置き去りにしてしまったような。
 何かとても輝かしいものから、私だけが、取り残されてしまったような……
 ああ。
 夏は、切ない。
 いつの間にか大人になってしまった私には、眩し過ぎて、暑すぎて…… 息が苦しくなる、季節。
「…………………」
 朦朧とした意識の中で、私はぼんやりと空を仰いでいた。
 蝉の声が、頭の中をぐるぐる回る。
 目を開けているはずのなのに、目の前がだんだんと白っぽくなっていく。
 このままでは、良くない。
 それは、自分でもわかっていた。
 このままではまた、大切な友人に迷惑をかけてしまうだろう。
 私の敬愛する友、鈴影医師。
 医者としての彼の微笑みを、寝台の上で目の当たりになどしたら…… 私は、恥ずかしさと申し訳なさで、穴があったら入りたい気持ちに苛まれるに違いない。
 わかっている。
 それは、わかっているのだけれど……
 でも、少しだけ。
 ほんの、少しだけ。
 そうやって彼の立場と優しさに甘えてしまうのも、悪くはないかな、と。そんなことを思ってしまう自分も、確かに、ここに……
「……馬鹿な、こと……」
 くすっと、私は自分に苦笑した。
 つい、独り言が出てしまった。もう内と外の境がわからなくなってしまったのかもしれない。
 いけないなと、思う。
 こんな状態で、彼に会ってしまったら…… 自分でも何を言い出すか、わかったものではない。
 そう。
 ただ患者としてでも、いいんだ。
 彼の目が、私を見てくれるかもしれない。そのことを思うだけで…… 朦朧とした私の意識には、仄かな幸せが滲んでいく。
 ああ。
 いけない。こんなことでは。
 司祭が人に迷惑をかけるなんて、許されない。まして、敬愛する友の手を煩わせてしまうなど。
 いけない。
 手に入らない夏の代わりを、求めるなんて。
 そもそも、神にこの身を捧げた私が、人の子に恋をするなんて…… そんなことは、絶対に許されないのだから。
 だから。
 だから、私は。




 ――――いつか、お前もわかるよ。好きな人でも出来たら……




「……………………」
 ふと。
 薄れかけた意識の片隅で、誰かの声を聞いた気がした。
 それは、とても懐かしい声。
 だけれど、今の今まで、不思議と思い出すことはなかった。それを思い出すのは、私にとって、何か胸を締め付けられるようで……
 そう。
 まるで、有りもしない『夏』の記憶を辿る時のような。
 遠い。遠い。
 ああ、思い出そうとするだけで、何だか…… 息が、苦しくなりそうな……
「………ッ…っ…」
 あの声が、すぐ側で聞こえる。
 白く飛んだ視界が、ぐらりぐらりと揺れていた。まるで、肩を揺さぶられているみたいに。
 私は無意識で手を伸ばし、そこにある何かを掴んだ。
 柔らかな、布地の感触。
 さっきから、あの声がしきりに呼んでいるのは…… 私の、名前?
「………オ…… おい、ナオ!」
 その途端、混濁しかけた意識が揺り戻される。
 ハッと、私は目を開けた。
 真っ白に飛んでいた世界が、だんだんと色彩を取り戻していく。肩を掴む手のぬくもりに誘われるように。
 ベンチに腰掛けた私を覗き込む、人影。
 瞬きを繰り返す度に、それは次第にはっきりと、鮮明になっていく。
 それは、茶色の髪をぼさぼさと逆立たせた、オルフの男。
 人の良さそうな垂れ気味の目が、食い入るように私を見つめている。とても、とても、心配そうな顔をして。
「…………」
「ったく、もう。何やってんだか、ナオちゃんは…… 久しぶりの再会だってのに、イキナリ心配かけないでくれる?」
 戯けるようにそう言って、そのオルフの男はくすっと苦笑した。
 その顔。
 ああ、なんて、懐かしいのだろう。
 まるで呼び水のように、私の頭の中に『あの頃』が甦ってきた。その顔が私の近くにあった、あの頃の記憶。
 そう、だ。
 私にも、ささやかな夏はあったのかもしれない。
 修道院の石壁の中で過した、あの、ささやかな夢のような……
「…………コ………」
 懐かしい名前が、胸から込み上げてくる。
 乾いた唇が震えるままに、私は、酷く久しぶりにその名を呟いていた。
「……ニコ…… ニコラス……?」
 
 
 
 
 
 
 
            
 
 
 
 
 
 

  
 
■ 何か新しい人出て来た!Σ(゚Д゚;)
はい、そうです。予告も無しに新キャラ登場です…… あ、実はツイッターの方とかだとけっこう前から呟いてはおりましたが。
『ニコ』という名の、オルフです。
本名は、『ニコラス』。
最初の予定ではビズーだったので、リアイベ用に作ったうちの子紹介本ではビズーって書いてあったりするんですけど^^;
でも、オルフが可愛かったのと、相方が描いてくれたニコの設定画(の髪型)がちょっとオルフっぽかったので、ビズーからオルフということになりました。
クゼさんの話に出て来たことでおわかりの通り、クゼさんの関係者です。
どうやら、クゼさんのことを『ナオ』と呼ぶようで…… はてさて、どんな関係なのやら^^ とか、ちょっと引っ張ってみたり(笑)
詳しくは、クゼさんの思い出話の方で明らかにしたいと思っています。
設定画も相方に描いてもらってあるのですが、それもその時に。
『ニコ』という名のオルフが登場したことだけ、覚えておいていただけたら嬉しいなぁなんて思います^^


■ リアイベお疲れさまでした!
ミズリもこっそりと参加させていただきまして、とても楽しかったです^^
いつもお世話になっている擬リヴラー様方にご挨拶出来て、ポスカと冊子をお渡し出来て、いっぱいお喋りしていただいて、楽しい思い出が出来ました。
また来年もリアイベが開催されますように。
そうそう、うちの子小冊子とポスカはまだありますので、もしもらっていただける方がいらっしゃいましたら以下のフォームからご連絡下さい^^

→ リアイベうちの子紹介本用メールフォーム

ただ、ちょっと数が少なくなってきましたので、今までに何度かniceのやり取りをした事がある方に限らせていただくということで…… スミマセン><
交換じゃなくてももちろん大丈夫ですので、お気軽にどうぞ^^


■ 最後に、ゴシック箱にホイホイされたことだけお伝えしておきましょう……
あれ、ズルいです。素敵すぎです。
チャコールが一発目に本命のソファーを当ててくれたのですが、他にも欲しいものがいくつもあったので、正直困ったくらいです。


「……むにゃ…… コールにぃ……」
「……zz……」

9月になってGLLに入るのが待ちきれずに設置。
これだけでも色合いが素敵で嬉しいです^^ GLL入ったら色々試してみたいです。







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