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ある夜の千紗とバンリ。 [小説 : Dolly Shadow]






■ ある穏やかな夜のお話です。
BL色は弱めですが、BL前提になってますのでご注意下さい。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 携帯が震えて、着信を知らせる。
 ソファーの上で魔道書を広げていたバンリは、ふと紙面から顔を上げた。
 真夜中の、突然の着信。
 普通ならそれは、悪い知らせのようにも思えるだろう。でも、バンリにとっては、ふわりと舞い降りた幸せの予兆。
 携帯を取り上げ、バンリは仄かに頬を染める。
 何となく…… 予感が、していた。
 今夜はきっと、あの人から電話が来るような気がする、と。
 それはただの願望だったのかもしれないけれど、こうして現実になった願いなら、それは確かに予兆だったのだろう。
 画面に浮かぶその名をもう一度眺めてから、バンリは着信のアイコンを押した。
 そして、そっと耳に押し当てる。
「……はい、バンリです」
 囁くのは、いつものフレーズ。
 あの人からの電話に応えるのは、いつもこの言葉から。
 まるでそれに安堵するかのように、あの人の吐息が電話越しに聞こえてくる。
 優しく鼓膜を揺らす、凛としたテノール。
 だけど、こういう時に聞こえて来るのは、決まってどこか気怠げな声。
『バンリ。俺だ』
 いつも通りの応えが、返ってきた。
 眼鏡の奥の目をそっと細め、バンリは携帯に囁きかける。
「千紗さん…… お疲れさまです」
『ああ。すまないな、夜遅くに。もう寝ていたか?』
「いいえ、まだ起きていました。千紗さんは、まだお仕事中ですか?」
『俺も終わった。今は車の中だ。これから、帰る』
 そう言う声の向こうに耳を澄ましてみれば、確かに微かなクラクションが聞こえるような気がした。
 きっと、隣に秘書の真田もいるのだろう。
 もしかしたら、真田が電話することを勧めたのかもしれない。あの主思いの秘書は、主の口に出さない望みを汲み取るのがとても上手いから。
 くすっと独り微笑んで、バンリは携帯を反対の手に持ち替えた。
 そして、膝の上の本をぽんと叩き、魔法で本棚へと送り返す。
「そうだったんですね。お疲れさまです、千紗さん」
『ああ。まぁ、仕事とは言っても、ただの飲み会だがな…… 酒は美味かったぞ』
 仄かな苦笑の混じる声で、千紗は言う。
 千紗の使う『飲み会』という言葉と、バンリ達が使うその言葉とは、意味も規模も全く違う。
 かつて企業勤めをしていたバンリは、それを少しだけ知っていた。
 それは、想像するだけで胃が痛くなりそうな、腹黒狸たちの化かし合いの場。
 振る舞われる酒は、舌が蕩けるような美酒ばかり。だが、その極上の味に酔ってしまったら、木葉の山の上で朝を迎えることになるのだ。
「ふふっ…… それで、少し酔ったお声をしているんですね」
 酒の匂いがするその吐息が、まるで電話越しに伝わってくるよう。
 冗談めいた調子の言葉に、バンリもくすくす笑いで応えた。この人が何でもないと言うのなら、自分もそのまま受け止める。
「こんな遅い時間まで…… お疲れさまでした、千紗さん」
『ああ、疲れた。だが、明日は少しゆっくり出来ることになったからな』
「そうですか。良かったですね」
『ああ。………』
 ふと、沈黙。
 うん? と、バンリは浮かしかけた腰をクッションに戻す。
 電話の向こうから聞こえていた声は、何かを言い淀むように押し黙ってしまった。
 呻き声のようなものが、微かに聞こえる。
 それと、真田の声だろうか。
 電話を手にする主へと、まるで何かを進言しているかのような……
「……千紗さん」
 くすっと、バンリは独り笑みを洩らした。
 大切な人が何が言いたいか、その沈黙が、声よりも確かにそれを伝えている。
 千紗は、自らを甘やかさない人。
 彼自身だけではなく、バンリのことも。自らを律することで、お互いに強くあろうとしている人。
 カレンダーを見れば、三日前の日付に小さな印が付いていた。
 それは、千紗が来てくれた日の印。
 バンリにとっては、それは『もう』三日前のこと。そしてそれは、きっと千紗にとっても。
 でも、千紗はそれを、『まだ』三日と考えようとしているのだ。
 『もう』ではなく、『まだ』。
 彼が冷たいからじゃない。バンリは、よく知っている。
 だってそれは、バンリの為でもあるのだから。
 そう。
 千紗がいつも適度な距離を保とうとするのは、お互いの為。
 心地良い温室に溺れて、冬を乗り切る力を失ってしまわないように…… それが、あの人の優しさ。
「……千紗さん……」
 携帯を耳に押し当て、バンリはそっと目を閉じる。
 言葉の出ない唇を開いたまま、車の天井を見上げているあの人。その姿を、思い浮かべながら。
「千紗さん。確かに僕は、いつも千紗さんのお側にいられるわけじゃありませんし…… 千紗さんも、いつも僕の側にいて下さるわけじゃないです」
『…………』
「でも、千紗さん。今夜は僕、ずっと部屋にいるつもりですよ?」
 そっと、バンリは囁く。
 零れる笑みを抑えることなく。ふふっと、言葉と一緒に。
 電話の向こうから聞こえて来る、車のクラクション。眠らない大都会の、夜の音。
 その中に、ふっと、吐息の音が混じった。
 ため息のような。失笑のような。
 ギシッとシートが軋む音がして、千紗の笑い声が電話から流れてくる。
『なんだ、バンリ…… 珍しいじゃないか、お前から誘ってくるとはな』
「そ、そういうことでは…… ない、ですけど」
 かぁと頬を赤らめ、バンリは少し目を泳がせた。
 そんなバンリが見えているかのように、千紗は快活に笑う。
 声しかお互いに聞こえないのに、まるで、初めから隣同士にいるような心地がした。
 手を伸ばせば、まるで触れ合えてしまいそう。それはきっと、これから訪れる幸せの予兆。
『これから、そっちへ行く。良いか?』
「はい、千紗さん。お待ちしています」
『酒は充分だが、少し腹が減ったな。何か用意しておいてもらえるか』
「ふふっ、わかりました。何かお酒の後に良いものを、作っておきますね」
 再びクッションから腰を上げ、バンリはソファーを立つ。
 携帯を耳に挟んで、エプロンをして。
 事情を察した使い魔のシロムシクイが、主人が立った後のソファーをせっせと整えはじめる。
 その健気な様子にくすっと微笑んで、バンリは携帯をまた反対に持ち替えた。
『それじゃあな、バンリ。また後で』
「はい、千紗さん。どうぞ、お気を付けて」
 短い言葉を交し合って、電話を切る。
 これから訪れる幸せな時間を、心から楽しみにして。
 携帯をポケットに押し込み、バンリはさっそく冷蔵庫を開け、使えそうな食材を取り出し始めた。
 真夜中のキッチンに響く、トントンという音。
 鍋から立ち上る美味しそうな匂いは、あの人を迎える玄関まで漂っていた。
 
 
 
 
 
 
 
            
 
 
 
 
 
 

  
 
■ という、ささやかなちーばんの小話でした^^
何か無性にちーばんが書きたくなる時がありまして…… 夫婦のようなちーばんは、ミズリにとっても癒しなのです。
千紗とバンリはラブラブなのですが、お互いの仕事の都合もあってなかなか会えません。
ただ忙しいというだけじゃなくて、千紗があえて距離を取ろうとしているところもあります。お互いの為に。
本当は一緒に住みたいくらいの二人だけど、お互いに(精神的に)頼り過ぎちゃうのは良くないから…… と。
いつもなかなか会えないから、会えた時がすごく幸せに思えるそうですし。
ちーばんは、そんな二人です。


■ 話変わって、リヴ公式ではウィルキンが発生してますね。
モンスターパニックイベントは、ご飯あげるのが大変なのでちょっと苦手だったりするのですが…… ウィルキンさんは動きがゆっくりなのもあってか、あんまりご飯横取りされませんね。助かります^^
倒すともらえるアイテムがネギっていうのも面白い。



「君は誰だい? 初めて見る子だけれど…… え、タルトが欲しいのかい? う、うん、どうぞ」


クゼさんの部屋にもウィルキン襲来……!
何かスクショ撮ってみたら、偶然にもウィルキンがタルトに手を付けようとしているようでした(笑)
何か微笑ましい^^*
それはそうと、ウォームにうさみみが似合いすぎて可愛すぎて辛いです。



「ヒナタくん、ウィルキンという人がネギをくれたのだけれど、いるかい?」
「へぇ、いいネギですね。でも、ウィルキンのネギって食っても平気なんですかね……;」


何か、すごく良いネギですよね。お鍋に入れたら美味しそうな!
でもウィルキンが落としたネギだと思うと…… 食べて大丈夫なのかな。ネギで風邪予防ってことなんだろうけど。
ヒナタはお料理上手の主夫ですから、きっと美味しいネギ料理を作ってくれたことでしょう^^
ミズリも年末年始に酷い風邪をひいて辛い思いをしたので、本当に風邪には引き続き気を付けたいと思います……(切実)








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