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或る日の音楽教師バンリの独白 【千紗先生とお買い物】 [小説 : パラレル]

 
 今日は日曜日ですので、学校はお休みです。
 千紗先生もご予定がないそうなので、今日は、お買い物をご一緒させていただきました。
 学校ではなるべく『千紗先生』とお呼びするようにしていますが、学校の外なら、『千紗さん』でいいですよね。
 子供の頃は『チサ』でしたけど、今は…… 『千紗さん』が、一番お呼びしやすいです。
 千紗さんがチサと呼べと仰るのでそうしていましたが、やはり呼び捨ては気が引けてしまって……
 でも。千紗さんは、昔と変わらず、僕を『バンリ』と呼んで下さいます。
 それは…… とても、嬉しいです。
  
 
 それにしても、こんなに千紗さんとお出かけをしたのは久しぶりです。
 頻繁にお会いしてはいますが、今日のように一日中というのは、本当に久しぶりで……
 千紗先生は、今でもとてもお忙しい方です。
 休日は予定がたくさん詰まっているみたいですし、平日も、夜までご予定がいっぱいの日もあるとか。
 千紗さんは、ほんの少し前まで、大きな企業の重役を勤められていました。
 今は、僕と同じように学校の先生をされています。
 ですが、本当のところは…… 今もまだ、いくつかの会社と関係されているようなのです。
 一度ちょっとだけお尋ねしてみたのですが、意味ありげにお笑いになるだけで、具体的なことは仰いませんでした。
 でも、きっと…… そうだろうなと、僕は思っています。
 千紗さんのお父様は、千紗さんが教師に転身すると決めた時、大層お怒りになったのだそうです。
 ならば勘当だと、それ位の勢いだったのだとか。
 ですが、千紗さんの決心がとても固いことをご理解下さって、涙ながらに許して下さったのだと…… 人づてにですが、そんな噂を聞きました。
 千紗さんは、とても責任感の強い方です。
 確かに、全てを捨てて転身する決心をされたのでしょうけれど…… 自分の責任の全てを放り出すなんて、千紗さんには、きっと出来ないだろうと思います。
 それに……
 僕は、少しだけホッとしています。
 千紗さんは、今まで企業の重役として頑張って来られました。それを全て無かったことにしてしまうのは、何だか、淋しいですから。
 素敵なスーツに身を包み、バリバリと手腕を振るう千紗さん……
 そういう千紗さんのお姿も、先生として教壇にお立ちになっている千紗先生も、どちらも千紗さんに相応しいのではないかと思うのです。
 教職との両立は、とても大変だろうとは思いますが。
 でも、千紗さんでしたら…… きっと、大丈夫だろうと思います。
 それに、教師に転身されてから、千紗さんはとてもお元気そうになったのですよ。
 以前は、お疲れの様子を懸命に隠そうとされていることが多かったのですが…… 最近は、そんな様子は感じられません。
 疲れた疲れたと口では仰っても、お顔はとても楽しそうに笑っていて、僕にも優しく笑いかけて下さるのです。
 そんな千紗さんの笑顔は、本当に、眩しいようです。
 何だか、つい…… どきっと、する程です。

 
 お買い物は、とても楽しかったです。
 デパートや紳士服のお店をあれこれと覗いたり…… 大きな本屋さんに寄って、経済誌や最近話題の本をたくさんお買いになったり…… 千紗さんも、とても楽しそうにされていました。
 それに、僕が行きたがっていただろうと、最近話題のあのカフェにも連れてって下さって……
 ああ、あのミルフィーユは本当に美味しかったです。あの香ばしいパイのさくさく感と、程よい甘さのカスタードクリームの風味豊かなことと言ったら……!
 雑誌やテレビで見て、一度食べてみたいと思っていたのですが…… まさに、噂に違わぬお味でした。感激してしまいました。
 つい何度も美味しい美味しいと言ってしまったので、千紗さんに笑われてしまった程です。
 だってですね、本当にすごく美味しいのですよ?
 あまりくすくすお笑いになるから、恥ずかしくてついそんなことを言ってしまったのですが…… 千紗さんは、ああわかるよ、と。
 お前が美味そうに食っているのは、いつ見ても良いな、と。
 ……そんなことを言われたら、余計に恥ずかしくなってしまいます……
 でも、ミルフィーユはとても美味しいですし…… 我慢しようと思っても、美味しくて顔が緩んでしまうのです。
 千紗さんが良いと言って下さるのなら、いいのですよね、それで。
 千紗さんはミルフィーユではなくて、ガトーショコラを召し上がっていました。それも、すごく美味しそうで…… 次は、それを食べてみたいです。
 いえ、本当は両方だって食べられますけど、でも…… ケーキは数に限りがあるそうで、二つ頼んでしまうのはさすがに気が引けて……
 そう言えば、お店にいるのは若い女性ばかりでしたね。
 食べ終わってから何だかやけに視線を感じるなぁと思ったのですが、やはり、男は珍しかったのでしょうか。
 でも、似たような視線を、学校の食堂でも感じるような気がするのですけど……
 僕の、気のせいでしょうか。


 今日は本当に楽しかったです。千紗さんと、たくさんご一緒出来て。
 でも、何だか…… 今は、淋しいです。
 部屋でひとりぼんやりしていると、早く明日にならないかなって、そんなことばかり考えてしまいます。
 ピアノの練習をする気にも、なれません。
 明日になれば、学校が始まって…… また、千紗さんと一緒に……
 そう、ですよね。
 次はいつお会い出来るだろうって…… もう、そんな心配はしなくていいんですよね。
 今夜は、早めに寝てしまいましょう。
 明日の支度をして、それから。今日はたくさん遊びましたから、きっとよく眠れるはずです。
 千紗さんも、ぐっすりとお休みになれますように……
 おやすみなさい。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
■ フェアメル学園ネタです。
……ええ、ぶっちゃけデートですが何か^^
でも、バンリにはデートだなんて自覚は全くなければいいと思います。
恋人の自覚だってもちろんありませんよ。もし冷やかされたりしたら、「まさか、僕なんてそんな……」とか言いますよ。(もちろん頬は赤らめつつ^^)
千紗先生とバンリ先生は、日々、学園中の腐女子の皆様に噂話のネタを提供していればいいと思います。
もちろん、決定的なところは絶対に見せませんからね。千紗先生は。
でも、そうやって「怪しい!」「絶対怪しい!」って邪推してる方がきっと楽しいですよね^^
最初はヒナタ先生も出そうかと思ったのですが、何か…… 出る幕なかったので、やめておきました。
ヒナタ先生は、だいたいこういう役回りです。
 
 

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