【Dolly Luster】 Chapter:1 宵闇の島の魔法使い 《3》 [小説 : Dolly Luster]
■ 普段の世界観とは違う、ファンタジー風の世界が舞台の長編連載物です。
登場キャラはいつものDollyShadow組ですが、普段の設定とは異なるパラレル設定になっています。
軽いBL要素を含みますのでご注意下さい。
前回 → 「Chapter:1 宵闇の島の魔法使い《2》」
初回 → 「Chapter:1 宵闇の島の魔法使い《1》」
そして、パンケーキはみるみる間に三人のお腹に収まり、満足そうなため息がそれぞれの口から洩れた。
食器たちは自ら食卓を退き、ティーポットがおかわりの紅茶を注いでくれる。
「しかしさ、バンリ。庭の薔薇だけど…… 何で、あんなに白薔薇ばっかなんだ?」
またマシュマロを口に押し込みながら、ふとアヤセが言った。
「白薔薇も綺麗でいいけどさ、赤とか黄色とか他の色もあるだろ。庭はあんなに広いんだし、色々植えてもいいんじゃねーか?」
「そうですね。でも……」
ちらと、バンリは千紗を見る。
そんなバンリに、千紗はくすっと笑った。そして、弟の方へと向き直る。
「アヤセ。ラスター子爵家では、白薔薇は幸いをもたらす花と言われているんだ」
「え? そんなのあったっけ」
「ほら、白薔薇姫のおとぎ話を覚えていないか? 子供の頃、じいやから散々聞かされただろう」
「……ん…… ああ……」
何とも曖昧そうに、アヤセは目を泳がせた。
そんな弟にしょうがないなと苦笑して、千紗は静かに語り出す。
「かつて、このラスター子爵家には、白薔薇姫と呼ばれた姫君がいたそうだ。姫君はまさに白薔薇の如く美しく、心優しく、神にすら愛されていたという……」
紅茶を取り上げ、千紗は上品に口元へと運んだ。
「その頃、隣の領地の伯爵家は、不幸が続き、没落の危機を迎えていた。心優しき白薔薇姫は、滅び行く伯爵家を救うため、自ら進んで伯爵の元へと嫁いでいった…… そして、神に愛された白薔薇姫によって、伯爵家は神のご加護を取り戻し、幸運と繁栄を授かったそうだ」
「……へー……」
「ラスター子爵家の紋章は元々十字の剣だったが、今の白薔薇の印は、その時に付け加えられたものだと言われている。伯爵家に幸運と繁栄をもたらした白薔薇姫を、ラスター子爵家の誇りとしたんだな」
そっと、千紗は紅茶を啜る。
それを受けるように、バンリも口を開いた。
「僕も、そのお話を千紗さんからお聞きして、素敵だなと思ったんです。それで、薔薇は白薔薇と、決めているんですよ」
「……ふーん……」
アヤセは、持っていたマシュマロを口に押し込む。
心なしか、その表情は、暗い。
おやと、バンリはお菓子を食べる手を止めた。
口の中のものをごくりと飲み下して、アヤセは俯いてしまう。
「そんな意味、全然知らなかった。……オレ、ずっと教会にいたし……」
ぼそりと、吐き捨てるような呟き。
暖かかった空気が急速に冷えていくのを、バンリは感じた。紅茶の湯気が消えていくように。
きゅっと、口を結ぶ少年。
俯いたその目は、前髪に隠れて見えなかった。だが、その前髪は、心なしか小さく震えている。
「アヤセ君……」
少年の名を呼びながら、バンリは千紗を見る。
千紗は、ただ紅茶に浮かぶ細波を見つめているだけで、口を開こうとしない。
その時、時計が半時の鐘を鳴らした。
アヤセはちらとその方を見ると、最後にマシュマロをひとつ頬張り、そのまま席を立った。
「オレ、帰るよ。朝飯ごちそうさん。また今度手伝いに来るぜ」
「あ、アヤセ君……」
慌てて立ち上がるバンリに目もくれず、アヤセは家を出て行ってしまう。
足音が遠ざかり、やがてそれも聞こえなくなった。
彼が島を離れたことを、白薔薇のささやきが教えてくれた。
「……アヤセ君……」
少年が消えていった扉を、バンリはどうすることも出来ずに見る。
また、こうなってしまった。
アヤセという少年が突然不機嫌になってしまうのは、よくあること。大人には大したことのない些細なことが、まだ十八の少年には、とても重大なこととしてその身にのし掛かってしまうのだろう。
幼い子供の姿で、バンリは顔を曇らせていく。
そんなバンリの腕に、そっと千紗の手が触れた。静かに首を振って、バンリに座るように促してくれる。
「いつもすまないな、バンリ。気にしなくていい」
「千紗さん……」
テーブルに残された、飲みかけのティーカップ。
それを横目に映して、千紗は自嘲気味に口の端を吊り上げる。
「弟は、どうにも俺のことが嫌いみたいでな。お前が側にいると、比較的良い子にしてくれるんだが…… 家では、酷いものだ。俺とはろくに口もきこうとしない」
「……………」
「そもそも、家にいればまだ良い方だな。普段は教会の方に行ったっきりで、家にはなかなか居着きもしない。まぁ、教会にも個室を持っているはずだからな。不自由はしていないだろうが……」
ぬるくなった紅茶を、千紗は啜る。
余裕そのものと言った感じの、涼しげな表情。千紗という人は、いつもそんな顔をしていた。
だけど、バンリは知っている。
その余裕の表情は、ラスター子爵家当主が被らなければならない『仮面』だということを。
彼の肩に零れかかる、長い金色の髪。
その上から、バンリはそっと千紗の肩に触れた。
「……バンリ」
「アヤセ君は、難しい年頃ですからね。お兄さんと仲良くするのが恥ずかしいんですよ。きっと、照れてるだけです」
「……………」
小さなバンリの手に、千紗は手を重ねる。
酷く、冷たい手だった。
千紗の手は、もっと暖かくて、力強くて。自分をぬくもりで包んでくれるような、そんな手だったはずなのに。
今の彼の手は、まるで氷のように冷え切っている。
紅茶のぬくもりなど、もう彼の中のどこにも残っていない。
「……すまないな。バンリ」
バンリの気遣いを労ってくれる、横顔だけの、微笑み。
『仮面』の下に垣間見えた、その表情に…… バンリは、眉を顰める。
「千紗さん」
冷たい手を自らの頬に押し当て、バンリは、そっと瞼を伏せた。
「貴方は、また…… お疲れなのですね」
「……………」
沈黙が、部屋に流れる。
冷え切った手が、少しでも暖まるように。バンリはその手に両の手に添え、頬を擦り寄せる。
とても大きな、そして、とても冷たい手。
「バンリ……」
千紗は、僅かに目を細めた。
手のひらを返し、バンリの頬を包み込む。
優しい口付けの音を鳴らして、千紗はあどけない目元に唇を寄せた。
そして静かに席を立つと、小さなバンリの身体を、その腕に抱き上げる。
「庭に行こうか、バンリ」
「……はい」
きゅっと、バンリはその人にしがみついた。
玄関を抜け、白薔薇の道を歩いて、白いベンチに腰を下ろす。
バンリを膝に抱いて、千紗は柔らかなバンリの髪にそっと顔を埋めた。
庭園を包む、甘い薔薇の香り。
空を覆う夜の帳と、ささやかに降る月明り。
宵闇の中で白薔薇たちが美しく咲き誇る、それはまるで、夢のような光景。
バンリを抱いて、千紗は目を閉じる。
子供のように、目を閉じる。
「ここは…… いいな」
夢を見るような声で、千紗は呟いた。
「夜空が綺麗で、薔薇の良い匂いがして…… 落ち着く…… バンリ……」
「……千紗さん……」
抱き寄せる手から、力が抜けた。
その人の唇から、深い吐息が零れた。心から、安らいでいるかのように。
それは、バンリが望んでいたこと。
魔法使いバンリの、心からの、願い。
「……良かった。千紗さん」
大きなその目を、バンリは震えるように細める。
そして、千紗の服をきゅっと掴むと。バンリは、大切な人にそっと身を預けた。
「お休み下さい、千紗さん。どうか、ゆっくりと……」
優しい歌声はそよ風に乗り、千紗を、白薔薇の庭を包んでいく。
それはまさに、夢のような世界。
宵闇を照らす月明りの中で、二人は、いつまでも寄り添い合っていた。
《Chapter:2 ラスター子爵》へ続く
■ というわけで、連載物の3回目です。
前回の切りどころの都合で、今回はちょっと短めになってしまいました。
DollyLuster版アヤセが前回から登場したわけですが、実は兄の千紗との仲はあんまり良くありません。
仲が良くないというか、アヤセが反発しているというか。
何故そういうことになってるかは、今後また語られることになりますが……
ちーちゃんとアヤセの兄弟の確執、書いててちょっと楽しかったです^^;
【イラスト/桜井嬢】
というわけで、登場キャラの紹介3人目はDollyLuster世界版のアヤセ。
衣装の雰囲気は、実は普段のアヤセと同じです。元々アヤセはゴシック風が好きですしね。
DollyLuster世界のアヤセは、ラスター子爵家の次男坊。
幼い頃から修道院で育った聖職者でもあります。あまり真面目ではないようですが。
そんなアヤセは、いつか魔法使いになることを目指して、バンリの元で魔法のお勉強中。
そっちの方はまだまだ見習いの域にも達してないようですが、色々とバンリのお手伝いをしてくれるので、バンリも助かっているようです。
でも、そんなアヤセには、今でもバンリ以上だという強力な魔力感知能力があるらしいのですが……
それはまた、後ほど。
今回まではプロローグ編でしたが、次回からは新しい章に入って、お話もぐっと進みます。
どうぞ続きもお付き合い下さいませ^^
■ 先日…… ヤミ箱屋に、新しい箱が追加されましたね。
星屑箱、とか。
うちの子は特に星属性の子いないし、今までも天体系の箱はスルー出来ていたのです。
今回も『星屑箱』とか言ってるし、スルー出来て助かったなぁと思っていたら……
……都会の夜景、だと……!Σ(゚Д゚;)
えええええ!?
都会とか言ってるし! なっ、なんというDollyShadow組ホイホイ!
ご、ご存知の通りですね、今はパラレルやってますけど、うちの子たちのDollyShadow世界は現代~近未来風設定でして……
バンリ・ヒナタ・アヤセ・チャコールたちは賞金稼ぎや裏家業人で、日々都会の夜の闇を駆け抜けていて…… 千紗や海里のような企業重役たちが、夜景を見渡す超高層ビルの上からその都会を支配しているわけで……
都会の夜……
DollyShadowのメイン舞台と言っても過言ではない世界……
な、何てことでしょう。せっかくスルー出来ると思ってたのに…… ヤミ箱最近負け続きで良い思いないのに……
……でも…… でも……
ありがとうヤミ箱屋さん! グッジョブ!!(*>▽<*)
「千紗さん…… 早くいらっしゃらないかな……」
というわけで、ゲットしましたよ都会の夜景!!
しかも、バンリさんが2回目で目的の夜景を引き当ててくれまして。良かった、ホッとした~^▽^
今月バンリさんはGLLに入っていないのですが、待ちきれなくなって設置しちゃいました。
いいなぁ、素敵だなぁ^^*
千紗とバンリの夜景デートが再現出来るなんて、嬉しすぎます~!
明日GLLに入ったら、もっと気合い入れてレイアウトしようと思いますが…… 背景がすごく素敵なので、これだけでも好き^^
ネオンで白んだ感じの空の色も、すごく綺麗ですよね。大好き!
やー、都会のビル群っぽい感じの背景とか出ないかなーって思っていたのですが、本当に出てくれたなんて嬉しいな。
普通のヤミショだったもっと嬉しかったのですが……^^;
でも、今回の星屑箱ってどれも素敵なアイテムばっかりで、どれが出ても嬉しい感じなので良かったです。
今度、ヤミショで店内壁紙再販されないかなー。
それと組み合わせて、夜景の綺麗なカフェとかレイアウトしてみたいです。ヤミショ店主さん、ぜひ!